* 本ページの内容は2024年度のシラバスに基づきます。
①世界、歴史、人間存在の理解
企業論 ―企業、市場そして社会― (2単位・必修)
担当:野田智義 教授(統括)、Jesper Koll 特任教授、薗田綾子特任教授、佐藤 潤一 特任准教授
営利企業は、いまや私たちの世界経済を動かす主役である。とりわけ、グローバル企業は国境を越えてヒト・モノ・カネ・情報を動かし、小国のGDPを凌駕する売り上げ規模を有するに至っており、その世界に与える影響は甚大である。にも関わらず、これまで経済学も社会学も政治学も、その理論構築と実証研究において、企業という存在と概念を真正面から研究対象としてきたとは言い難い。また、経営学においても、「企業をうまく管理する」という観点からの研究こそなされてきたものの、経済社会システムの重要なアクターとしての企業の意義とその役割については、探究が十分になされていない。
このコースでは、歴史を振り返り、そして比較文化論に立脚しながら、企業の本質に迫る。とりわけ、法人企業は「ヒト」ではなく「モノ」であるにもかかわらず、社会において、「ヒト」同様の「法人格」が付与されている奇妙な「モノ」である。この法人化された企業という存在を分析対象の中心に、出発点となる法の精神、その後の法制度論の変遷も紐解きながら、企業という存在の本質に迫り、<企業とは誰のために何のために存在するのか>を問う。
近代哲学、資本主義、人間存在の未来 (2単位・必修)
担当:西研教授
ヨーロッパで誕生し、グローバリゼーションの加速によって全世界に浸透した資本主義経済システムは、先進国のみならず途上国の人々に物質的な豊かさをもたらしている。一方で、システムは、各国内での格差の拡大や、資源の消費や気候変動等による持続可能性への懸念といった負の側面を世界規模で顕在化させている。
この科目では、資本主義の人類史における意義を、⻄洋近代という枠組みを通して考察する。⻄洋近代は、人類の歴史における革命的な出来事だったといえるが、その経済システムである資本主義は、政治社会システムである⺠主主義と対をなしている。そして、この政治経済システムを設計したのが、近代⻄洋思想(ホッブス、ロック、ルソー、ヘーゲルといった一連の近代哲学思想)であった。
⻄洋近代の本質を近代⻄洋哲学・思想から紐解くことで、私たちが慣れ親しんでいる政治経済システムの人類の歴史上における意味と意義を掘り下げ理解することが、この科目の目的である。その考察にあたっては、人間存在のありうる姿、とりわけ、人間が「自由」でありうる条件に焦点を当てる。その上で、現在のグローバルな政治経済システムが抱える課題と対峙し、新たな未来を切り拓く原理の可能性を探る。
宗教から考察する社会構造と世界の多様性 (2単位・必修)
担当:橋爪大三郎教授
宗教は、人類のものの考え方や行動様式に決定的な影響を与え、社会を形成してきた。この科目では、マックス・ヴェーバー以来の宗教社会学の伝統を踏まえ、最新の知見も織り込みながら、社会の構造と人びとの行動原理を規定する宗教の作用に焦点を当てる。すなわち、キリスト教文明、イスラム文明の両一神教文明について、ヒンドゥー文明と仏教について、儒教・道教にもとづく中国文明について、それぞれの特質や慣習、思想、社会制度の違い等、比較社会学の観点から踏み込んだ考察を行なう。
さらに、グローバル世界の現況を解明する観点から、アメリカのプロテスタンティズム、イスラム復興運動、中国の社会主義市場経済など、国際政治、経済社会、文化などをめぐる最新の動向を分析し、これからの針路選択を探り、将来を遠望できる学問的基礎を身につけることを目的に、具体的な分析を行なう。とりわけ、それぞれの文明の異なる原理や行動様式が、どのような対立を生み出すか、その価値観にさかのぼって考察し、その解決の方策を、地政学的・経済学的な文脈のもとで考えてみる。学生には、コース全体を通じて、「自分の、そして人びとの、考え方や行動の規準は何なのか」という問いについて探求することを期待する。
社会システムの理論と人間存在の未来 (1単位・必修)
担当:野田智義教授、宮台真司特任教授
所属するセクターがビジネス・行政・市⺠セクターのいずれであれ、私たちは社会の一員として生きている。したがって、未来を担おうとするリーダーは、所属セクターを問わず社会のリーダーであるべきである。この科目は、社会のリーダーとして必要な視座の獲得を目的とする。具体的には、グローバル化や技術革新の進展の中での社会の変容や人間存在の変容の、現状を観察し、背景を理解し、諸問題の処方箋を考える。その際に重要なのは、自分たちがどんな未来を実現したいのかについての価値観と、未来を実現するために必要な資源を理解する合理的枠組である。これらを、自身が今行なっている挑戦に関連づけて理解していく。
この科目の中心的問題意識は、壊れつつある共同体の、再構築の必要性と可能性である。グローバル化と技術革新の加速を背景に、伝統的な共同体としての地域や家族が崩壊しつつある。その結果、「経済は回っても社会に穴が開く」「社会の穴を経済で埋める」「経済が傾くと社会の穴に落ちる」事態が世界中で起きている。こうした問題は、本来、⺠主主義国家では、市⺠による政治参加、すなわち⺠主政治によって解決されうると期待されてきたが、グローバル化による格差拡大と中間層分解、インターネットなどの技術革新による共同体へのコミットメント低下によって、⺠主政治の機能不全が世界規模で進んでいるのは周知の通りである。
私たちは、こうした社会の変容にどう向き合えるのか。リーダーとして、どんな未来を描きうるのか。この科目では、社会システム理論を学問的基軸としつつ、社会が経済、科学技術、さらには政治との間に取り結ぶ関係の現状と課題を掘り下げる。その上で、人間存在の本質に目を向け、人間と人間の関係性のありたい姿を再考し、よりよい未来を実現するためにリーダーが引き受けるべき責務と役割を展望する。
学生にはコース全体を通じて、「あなたは、システムの全域化の中での生活社会やコミュニティの現状をどう理解するか。そしてそうした現状は、人間存在をどのように変容せしめている(今後も変容せしめる)と理解しているのか。そうした変容をあなたはどう評価するか。何が課題であり、挑戦だと捉えるのか。あなたは人間存在、さらには、社会・コミュニティのあるべき姿、ありたい姿をどう描くのか。そのあるべき姿、ありたい姿を実現するためには、あなたは何が必要だと考えるのか。」という問いと向き合うことを期待する。
科学技術・イノベーションと人間存在の未来 (1単位・必修)
担当:山本 美樹夫 教授(統括)、森本 典繁 特任教授、福原正大 特任教授、ナリン・アドバニ 特任教授
人類の歴史を通して、科学と技術の発展は大きな役割を果たしてきた。とりわけ、18世紀半ばから 19 世紀にかけて起きた産業革命は、科学と技術に基づく様々なイノベーションが大規模な産業・社会構造の変化につながった、人類の歴史における大転換期であった。そして、そこから生じた現代社会は、更なる科学と技術の発展、その活用を後押ししてきた。こうしたダイナミズムは物質的な豊かさと経済的発展を社会にもたらした反面、環境汚染や格差の増大といった、様々なひずみももたらした。また、科学・技術が兵器開発に用いられることによって、20 世紀において、人類は人類社会そのものを破壊するだけの力を手に入れ、過去にない大規模な破壊を経験してきた。
このように科学・技術は、社会と密接につながっており、それらの使われ方によっては人類に光をもたらすのみならず、大きな闇をもたらしうる。科学・技術の進化が加速度的に早まる現代において、我々は科学や技術とどのように向き合うべきなのだろうか。そして、科学や技術と社会の相互作用は、人類にどのような未来をもたらすのだろうか。そこにおけるリーダーの役割とはなんだろうか。以上のような問題意識のもと、本コースは、科学・技術と社会の相互作用について歴史を振り返った上で、現在、急激に発展する科学・技術の最前線を学び、それらの上で、未来について洞察する視座とマインドセットを身につけることを目的とする。
学生には、コース全体を通じて「正しい科学・技術の進化の方向とは一体何であるか?」、「その正しい方向に向けて進めるためにリーダーは何を考え、すべきか?」という問いと向き合うことを期待する。
また過去数年、世界は「AI(人工知能)バブル」と言われる程の AI ブームを経験してきた。振り返ると AI の歴史は古く、第 1 次ブーム、第 2 次ブーム、そして現在の第 3次ブームと、過去にもブームがあった。過去 2 回のブームは一過性に終わったが、今回は AI 技術がディープ・ラーニングというブレークスルーと、コンピューテーション能力の飛躍的向上、ビック・データの登場と相まって、「AI が社会やビジネスのあり方を大きく変える」とされている。私達は未来を担うリーダーとして、AI とどのように向き合うべきなのか? AI はビジネスや社会をどう変えるのか?そもそも、現在進行中の第 3 次ブームを牽引しているディープラーニングや、データアナリティクス、生成 AI といった技術や概念の本質は何なのか?この科目では、AI の本質を理解し、AIが塗り替えつつあるビジネスと社会の現状を、経営者リーダーの視点で理解する。
東洋思想に見るリーダーシップ (1単位・自由科目)
担当:北神 圭朗 特任教授、枝廣淳子教授、吉川克彦教授
東アジアには、儒家の思想や道家の思想(老荘思想)といった中国で誕生し、朝鮮半
島を経て日本にまで伝わった豊かな東洋思想※がある。中国においては文化大革命によってこれらの古典の継承は断絶したとされるが、昨今、伝統的思想に対する関心の再興が見られる。一方、日本では「日本儒教」が独自に開花し、過去のリーダーの思想にも影響を与えてきた。この科目では、儒家の本質を「四書」・「五経」から、道家の本質を「老子道徳経」から明らかにし、こうした思想が現実の社会でどの様に活用されたかを唐の時代の「貞観政要」に学び考える。その上で、政治経済、経営、リーダーシップのあるべき姿を考えた時に、これらの思想がどんな意義と展開の可能性を持っているのかを探求する。
②他者・世界との対峙と自己の内省
世界と未来に対峙するリーダーの条件 (1単位・必修科目)
担当:大滝精一 教授、吉川克彦 教授、⻑尾俊介 准教授、鵜尾雅隆 教授、宇佐美潤祐 教授 、他
本科目の目的は、プログラム受講の出発点にあたって、<なぜ今、リーダーシップが必要なのか、それは自分の人生にとってどんな意味を持つのか>を学生一人ひとりが自ら考え、自身の全人格経営リーダーとしての成⻑に向けての意識を顕在化させることである。
グループでの創発型のワークショップを通じて、学生は自分の視野を広げ、人類史を振り返ると同時に、世界の現状を俯瞰し、未来を展望する。そしてその中で、自分たちが抱える現状の課題と挑戦の道筋を明らかにする。また学生は、本学が独自に用意し実施するコンピテンシー・アセスメント(自己測定)を行い、その結果に照らし合わせながら自身の今後 20 か月間の成⻑課題を確認し、これから始まるリーダーシップの旅を展望してゆく。
また、本科目のもう一つの目的が、クラスとしてのボンディングである。至善館における学びは、教員から学ぶこと、自ら学ぶこと、互いから学び合うことの 3 つの要素から構成される。これからの至善館における学びの旅を始めるにあたり、そうした互いからの学びの基礎として、互いを知り合うとともに、全員でどのような学びの場を共に作り上げていくのか、そのために互いに対して何を約束するのかについて検討を行う。
世界の鳥瞰と価値観の超克 (1単位・必修科目)
担当:ピーター D. ピーダーセン教授
本科目では、日本語クラスと英語クラスという垣根を超えて学生全体で、多様な経験とバックグラウンドをもつ学生たちが、世界が直面している問題に意識を向け、それらについてどう感じているかを話し合う中で、それぞれがどのような価値観やものの見方を抱いているかに気づき、理解することで、リーダーシップ発揮の基礎となる自らの基軸を確認することを意図している。
具体的には、今後数十年にわたり、世界の行方を大きく左右する様々な課題やテーマ̶例えば、気候クライシス、AI/IoT、難⺠・移⺠と⺠族文化、経済成⻑と環境保護、貧困と富の分配などを多面的に探究します。特に、それらの課題やテーマが内包するジレンマに着目し、個々人が抱く多様な価値観について議論および内省する。
これからのリーダーに必要な資質として、このコースでは、1. 価値観の認識(ValuesConsciousness)と、2. 価値観の相違を超越する能力(Values Mediation)を中核的なコンセプトとおく。
*本科目は、英語を中心に日本語を併用して実施する。
世界を見るまなざし −パフォーミングアーツを通じて− (1単位・必修科目)
担当:平田 オリザ 特任教授、田野 邦彦 特任准教授
3 つあるグループ演習の 2 つ目となるこの科目では、日本を代表する演出家・劇作家の監修のもと、演劇(パフォーミングアーツ)の制作体験ワークショップを通じて、自己、他者や世界の関係性を見つめ直すとともに、芸術および文化政策についての基本的な知識を身につけるための座学を並行して行う。芸術、とりわけ演劇を中心とした舞台芸術は時代を映す鏡であり、ギリシャ以来、⺠主主義を支える対話の技法を学ぶための重要な通過儀礼であった。ワークショップでは、リーダーに必要な合意形成能力などを身につけると共に、他者に何かを伝えるための表現技法を、単なるプレゼンテーションの技術としてではなく、コミュニケーションの本質から説き起こすことを意図している。座学では、芸術の基礎知識と共に、社会における芸術の役割、アートマネジメント、国内外の文化政策などを文化論的な背景を含めて考える。学生には、コース全体を通じて「全人格リーダーとして、自分とは異なる価値観を持った相手とどのように向き合い、対話するのか。グローバルなコンテキストにおける共感をどのように捉え、体現していくのか」という問いと向き合うことを期待する。なお、この科目は日本語と英語の併用で行う。講師の解説は日本語を原則とし、英語での逐次通訳を行う。
自己との対峙と基軸の確認 (1単位・必修科目)
担当:野呂 理 特任教授
この科目では、全人格リーダーには欠かせない基軸力を高めることを目的としている。ここで基軸というのは、自分らしい人生を生きるにあたって自分自身の拠り所となるものであり、リーダーとして行動し判断するための「ものさし」となるものでもある。基軸となり得るものはいろいろあるが、この科目では「自分とは何か?」に焦点を絞り、自分自身のあり方(BEING)の源泉である「ギフト」、「価値観」、そして「人生の目的」という 3 つの切り口からそれを探っていく。つまり、「自分についての学習」と言える。自分のことは、本当は自分がよくわかっている。だが、思い込み決めつけで固定化しがちでもある。自分で認識し切れていない側面もある。日々成⻑進化している部分もある。可能性も含めて、自分のことは自分が一番知っていたい。自己理解の精度を上げ、自己受容を深めるために、コーチング手法をベースとする様々な「参加体験型の演習」を通じて、過去から未来へ繋がる時間軸の中で生きる自分や、他者や社会との関わりの中で生きる自分を、重層的に見つめていく。「自分はいったい何者なのか?」「何を大事にしているのか?」「何のために生きているのか?」そして、「これから何をしようとしているのか?」などについて、他者との対話と内省を繰り返しながら、全人的な自分自身と深く向き合っていく。また、基軸となるものは、現実の行動を通して明確化されていくため、授業間の実生活における意識化・行動化による気づきや学びも重視する。
自分にとってのリーダーシップ−理想と現実を生きる− (1単位・必修科目)
担当:野田智義教授、吉川克彦教授
世界が混迷と分断を深め、未来が不透明である今こそ、現状に飽き足らず、新しい未来をつくり出すリーダーシップが求められる。では、リーダーシップとはそもそも一体何であろうか。リーダーシップは世間でしばしば誤解され、とりわけ組織のコンテクストにおいてリーダーシップを語ることには困難が伴う。この科目の一つの目的は、リーダーシップという現象をより深く理解すると共に、自分に引き付けて、リーダーとしての挑戦を展望することにある。
加えて、本コースでは、自らのキャリアにオーナーシップを持ち、リーダーとしての未来を主体的に切り開いていく上での枠組みや視点を提供することも目的とする。キャリアとは、明確な模範解答やマニュアルが無い中で、各個人が周囲の人々や組織、社会との関わりの中で模索し、形作っていくものである。よって、キャリアについての明確な意思決定に各参加者がたどりつくことではなく、枠組み・視点の提供と、検討の機会を提供することによって、参加者が今後続く人生においてより効果的にキャリアについて考え、意思決定をし、行動を起こすための土台を提供することを狙いとする。
③事業を構想し、検証する力
財務分析評価と経営管理の梃子 (2単位・必修科目)
担当:西山 茂 特任教授、西谷 剛史 特任准教授
この科目では、経営プロフェッショナル人材に求められる「数字」の読解力と応用力を習得すると同時に、経営者・起業家としての視点・視座の涵養を目的とする。企業のみならず、NPO/NGO や行政機関においても、事業の経営・運営状況や組織活動を理解するための主たる共通指標は、「数字」にほかならない。数字を分析し、評価し、必要な行動につなげていく力は、財務・経理などの専門家にとってだけでなく、リーダーにとって必要不可欠な基本リテラシーである。
本科目では、財務会計の基礎から管理会計の実践的スキルまでを幅広く学習するが、その際、単に知識を習得するだけではなく、実際の事業や経営が直面する具体的ケースを題材に進める講義を通じて、プロの経営人材やすべての領域のリーダーに求められるリアルな数字の読解力と応用力を身につけることに重点を置く。
但し、会計的に表現された「数字」は、必ずしも客観的な真実ではなく、そこには将来に対する経営者の見方などの「判断」が内包されている。特に、従前の日本の会計基準のように詳細な判断基準や数値基準を設ける細則主義(ルールベース)から、企業自らが会計方法の妥当性を判断し、説明することを求める原則主義(プリンシパルベース)に移行する中で、一見客観的に見える数字にも、数字を扱う側の恣意的判断が大きく関わってくることを理解する必要がある。従って、本科目では、昨今世間をにぎわしている企業による不正会計事件も取り上げながら、経営者やリーダーの姿勢や倫理の問題と併せて、「会計における正しさとは何か」を真正面から議論する。
市場の原理と企業金融の理論 (2単位・必修科目)
担当:佐藤克弘 特任教授
この科目では、経営プロフェッショナル人材に求められる「お金の流れ」(ファイナンス)の理解力と応用力を習得すると同時に、経営者・起業家としての視点・視座を涵養することを目的とする。企業のみならず、NPO/NGO や行政機関においても、事業の経営・運営や組織活動を通じて継続的に価値を創造していくこと、すなわち「キャッシュフロー」を生んでいくことがたいせつになる。そのため、マクロ経済、資本市場、産業、企業におけるお金の流れを分析し、評価し、自社におけるキャッシュフローの創出という観点から必要な行動につなげていく力は、経理・財務などの専門家にとってだけでなく、リーダーにとって必要不可欠なリテラシーである。
本科目では、いわゆるファイナンスにおける、資本市場(capital markets)、投資(investments)、財務政策(capital structure and financial management)、企業価値(valuation)について、その基礎から実践的スキルまでを幅広く学習する。ファイナンスは、「時間」「リスク」「期待」を基本原理としている。これらの原理がどのように具体的に機能していくのかについて、キャッシュフローを中心概念としながら、その本質を理解していく。そして、経営プロフェッショナル人材として価値の継続的な創造のためにそれらを応用できる力を身につけていくことに重点を置く。そのため、単に知識を習得するだけではなく、企業経営や事業運営において実際に直面する具体的ケースを題材に講義を進めていく。また、計算演習などを通じて、学生がファイナンスを実際に使っていけるようになることを目指していく。
このような伝統的なファイナンスのトピックに加え、最近ではコーポレートガバナンスの重要性が強調されており、経営における内部統制に加えて、社外のステークホルダーのエンゲージメントによって企業経営および企業価値についての説明責任を果たしていくことも求められている。そこで、いわゆるアクティビストによる提案事例も取り上げながら、ファイナンスのレンズを通して「経営とは何か」についても真正面から議論する。
学生にはコース全体を通じて、「経営リーダーとして、あなたは事業活動の価値をどのように分析し、議論するのか。」、「価値とは、お金を投資する合理的な『投資家』の観点から分析、議論されるものだ、という主張に対して、あなたはどう考えるか。」という問いと向き合うことを期待する。
システム思考と持続可能性への挑戦 (2単位・必修科目)
担当:枝廣淳子 教授、小田理一郎 特任教授
世界は様々な要素と各要素間の関係性によって成り立つ。こうした世界の複雑さを理解し、介入ポイントを見定めて、変化や変革を生み出していくのがシステム思考である。これは、世界の未来を担うリーダーとして、気候変動をはじめとする持続可能性の問題を考えるうえで不可欠なアプローチであり、また、経営者リーダーとしても、組織開発、組織変革、多数の個人や組織主体による創発活動を推進するうえでもきわめて有効とされている。この科目では、ボードゲームを中心に、コンピューターソフトウェアも併用しながら、システム思考の基礎を学ぶ。そして、事象の背後にある構造とその構造が誘発する結果との関連性を深く理解することで、リーダーに求められる、複雑性と対峙しながら未来を実現するスキルを身につけることに取り組む。学生には、コース全体を通じて「事象や組織をシステムとしてとらえるとはどういうことか、なぜそれが難しいのか。」という問いと向き合うことを期待する。
マーケティングの原理と実践 (2単位・必修科目)
担当:関灘 茂教授
P.F.ドラッカーが指摘したように、「企業の目的は顧客の創造」、「企業の基本機能はマーケティングとイノベーション」である。企業の基本機能であるマーケティングは、経営者・リーダーにとっての必修テーマである。経営者・リーダーには、自らがマーケターとしてのマインドセットを有することが求められ、かつ、有能なマーケターの選抜・育成を指揮する力量が求められる。
この科目では、米国を中心に発展してきた、フィリップ・コトラーに代表される R-STP-MM-I-C で知られるマーケティング・プロセスを出発点としながら、近年のデジタル関連技術・ソーシャル・メディアなどマーケティング環境の変化と本質を議論し、マーケティング・パラダイムの変化、及び、経営者リーダーが果たすべき役割、取り組むべき課題や挑戦を取り上げる。受講する学生には、全セッションを通じて、「経営リーダーとして、自社の所属企業・組織のマーケティング・イノベーション課題、挑戦・アクションとして何が求められているのか?」という問いに向き合い続け、持論を形作ることを期待したい。
構想する力 (1単位・必修科目)
担当:岩嵜 博論 特任教授
本授業のねらいは、学生に対して、ビジネスにおいて有用な創造力(Creativity)を働かせていくための基本的な方法論やマインドセットを紹介することで、それぞれが未来を構想する力を育むことにある。現代におけるリーダーは、常に複雑な課題に直面する。テクノロジーは急速に進化・革新し、予期していなかった競争環境や新たな制約は突如として現れる。つまり、これからのリーダーに必要とされるのは、業界の慣行や慣習を「正解」として安易に受け入れることなく、不確かな環境下で自分なりの答えを構想する力であり、創造力はその鍵となる。
現代におけるリーダーは、創造的に思考力を発揮することで、自分たちに多大な影響を与えうる予兆をいち早く感知し、市場における新たな(「破壊的な」)アプローチをつくりだす必要がある。また、目の前の問題を多角的な視点でとらえ、型にとらわれない思考力を持つことで、不確実な状況で起こる複雑な問題に正しく適応するだけでなく、そうした脅威をチャンスに転換していく姿勢もリーダーには求められる。
さらに、組織のリーダーとしては、効率化や最適化といった「従来型の」価値観だけで物事を判断せず、常にイノベーションを起こしていく風土を組織内に作り出していくことも必要となる。そのためには、リーダー自らが創造的な思考力の重要性を理解し、チームの想像力を刺激することで、従来の可能性の限界を超えた成果を引き出すことが求められる。
本授業では、各セッションを通じて、創造的に思考するための実用的・実践的なアプローチを提供していく。こうした演習を重ねていくことで、各学生は自分の固定観念や思考の偏りを壊し、新たな現実解を自ら構想できる創造的な思考力を培っていくことが意図されている。
構想を具現化する力 (2単位・必修科目)
担当:岩嵜 博論 特任教授
この科目は、「構想する力」で学んだ創造的な構想の手法を引き継ぎ、実世界で具現化できるイノベーティブなサービスや事業を構築していくための手法やマインドセットを、実践的に学ぶことを目的としている。
プロジェクトでの実践を通じて、従来型ではない、新たなマネジメントやリーダーシップのモデルを体験・体得することを意図している。トップダウン型で既存の枠組みの中での最適化を行うのではなく、協業型で、オープンな発想で創造的に問題にアプローチしていくことで、実世界にインパクトをもたらすイノベーティブなサービスや事業のデザインを行っていくことを学ぶ。
戦略手法と戦略思考 (2単位・必修科目)
担当:八橋 雄一 教授
競争戦略、マーケティング戦略、生産戦略、財務戦略など、いまや私たちの身の回りには「戦略」という言葉があふれている。しかし戦略という言葉は、もともと軍事用語であり、ビジネスや商いに応用するのは不適切だと思われていた時代がつい最近まで存在した。戦略的思考を企業家や経営者の不可欠な素養にまで押し上げたのが、アメリカの経営コンサルタントとビジネススクールでの研究だ。成⻑マトリックスで知られるイゴール・アンゾフ、経験曲線のブルース・ヘンダーソン、SWOT 分析のケネス・アンドリュース、5 フォース分析のマイケル・ポーター、経営資源/ケイパビリティ・アプローチのジェイ・バーニー、コアコンピテンスやストラテジック・インテントで知られた CK・プラハラドとゲーリー・ハメルのコンビ、バリュー・チェーン・デコンストラクションのフィリップ・エヴァンスとその同僚、バリュー・イノベーションのチャン・キム、リバース・イノベーションのビジャイ・コビンダラジャン、ビジネスと社会のかかわりに踏み込んだ近年のポーターの CSV などがその典型である。
この科目では、これらの理論、定石、フレームワークを修得する。但し、知識としての目的ではなく、「誰に対して、どのような価値を、どう提供し、どう対価をいただくのか」、「どう競争優位を確立・維持し、持続的な成⻑を成し遂げていくのか」という戦略経営における本質的な命題と向き合うために、これらの枠組みや思考法をいかに統合的に応用できるかを考える。同時に、自身が関わる(あるいは、自身が関心をもつ)事業に思いを馳せながら、科目での学びを進めることで、戦略家(ストラテジスト)の立場を超えて、事業の責任を負う経営リーダーとしての視座、思考、能力を育んでゆく。
④人と組織を動かす力
思いとビジョンを伝える技法 (2単位・必修科目)
担当:パトリック・ニューウェル 教授
本科目は、全人格経営リーダーとして、グローバルオーディエンスに対して自らの思いを伝え、支持を得るためのプレゼンテーションおよびスピーチの技法を学ぶことに焦点を当てている。学生は、ターゲットオーディエンスに対して、スピーチやプレゼンテーションをより効果的に構成し、デリバリーする方法を学ぶ。リーダーとして、多様な国籍や文化を背景とするグループの人々に、自らの思い、考えやビジョンを効果的に伝え、聞き手からの共感、賛同、支援を得るためのスキルを磨く。
経営リーダーとしての多様なオーディエンスを想定したコミュニケーションは、組織の一人のメンバーとしての、組織内の人々に対するコミュニケーション大きく異なる。組織内におけるコミュニケーションでは、話し手と聞き手がさまざまな認識を共有していることが前提である。また、プレゼンテーションやスピーチのやり方においても、その組織特有のスタイルに沿うことが求められる。一方、経営リーダーとして、国際的かつ多様なオーディエンスに語りかける場合、相手が、誰であっても通じる明確なメッセージ、リーダーとしての自身の思いや志を文化や立場を超えて伝えるだけのインパクト、そして、相手と心理的なつながりを作り出す技術が不可欠である。自身の「当たり前」を聞き手が共有していないことが前提であり、組織内のスタイルに縛られる必要もない。本科目は、学生の皆さんが今後、経営リーダーとして、世界に対峙していくためのスキルを学ぶ機会として設計されている。逆に言えば、組織内での一メンバーとしてのコミュニケーションの力を磨くことはこの科目の焦点ではない。コース全体を通じて、経営リーダーとしての立場に自らを置き、人に思いやビジョンを伝える自分自身の力の現状、また、今後の成⻑課題とは何かを見つめる機会とされたい。
本科目は全てのセッションを英語で行う。グローバルリーダーとして、自らの思いをグローバルオーディエンスに伝えなければならない場面は、近い将来に必ず訪れる。多国籍チームのリーダーとしてチームを率いる自らの姿を想像し、世界中で通用するコミュニケーションの力を、この科目を通じて習得することを期待する。
*本科目の講義は英語で行い、日本語での逐次通訳を行う。
人と組織のマネジメント (2単位・必修科目)
担当:石原 直子 特任准教授
リーダーは、自らの描くビジョンの実現に向けて、人と向き合い、協働を引き出し、組織を動かしていく必要がある。いかにビジョンや戦略が優れたものであっても、それを実現する人と組織の力を育て、生かさなければ、市場や社会に対してインパクトを生み出すことはできない。
しかしながら、人間とは複雑な存在であり、集団の中における個人の行動は、多様な要素によって左右される。さらに、技術の進化や社会、価値観の変化により、組織のあり方、個人の働き方、個人と組織の関係は、歴史的な変化の局面を迎えつつある。複雑性、不確実性に満ちた環境で成果を上げるために、自律した個人を中心に据えた組織づくりが必要となっている。AI やロボットなどの技術の急激な発展により、従来人間が担ってきた労働が自動化されていく。さらに、事業活動に関わる人の範囲が、企業から雇用される社員を超えて広がり、組織の境界が揺らいでいる。未来の人と組織のあり方とは、どのようなものであろうか。我々は、既存の組織をどのように再構築していくべきなのだろうか。
本コースでは、個人のチームや組織における行動を左右する要素やメカニズムについて探求し、人と組織のマネジメントにおけるリーダーの役割についての理解を深めるとともに、これから求められる組織のあり方、個人の働き方、組織と個人の関係について、各個人が自身の考えを深めることを狙いとする。このテーマは、誰にとっても身近なものであるため、様々な立場、視点から議論することが可能である。しかしながら、本科目においては、参加者に、現在の自分の立場や視点からのみならず、経営リーダーの立場、視点からも人と組織のマネジメントについて考えることを求める。
科目全体を通じて、人と組織の本質とは何か、人と組織を動かし、成果をあげる上での、経営リーダーの役割とは何か、また、その役割を果たすために、経営リーダーには何が求められるのか、といった問いについて探究することを期待する。
人と向き合い人を動かすリーダーシップ (1単位・必修科目)
担当:越智 美由紀 特任准教授
経営リーダーとして自らが掲げるビジョンを実現していくプロセスにおいては、他者からの共感を獲得し、信頼を得ること、また、多様な人々をチームとして動かし、活かすこと、そして、人材を育成し、エンパワーすることが不可欠となる。本グループ演習においては、周囲の人々からのフィードバックや体験型のエクササイズ、クラスメイトとの相互フィードバックやコーチングを通じて、人と向き合い動かすリーダーシップに関する自分自身の現状についての認識を深めるとともに、ありたい姿を設定し、今後の成⻑のための行動アジェンダを検討する。
参加する学生には、「自分自身の対人影響力の特徴とはどのようなものか、その根底には何があるのか」、という問いを科目全体を通じて探求するとともに、自身のリーダーとしての影響力を高める上での挑戦課題について検討することを期待する。
リーダーシップと交渉学 (2単位・選択科目)
担当:田村 次朗 教授
本講義は、効果的な交渉によって、望ましい合意を形成する方法論である交渉学について学びます。交渉学は、ハーバード・ロー・スクールによって 1970 年代より本格的な研究・教育が展開され、現在、ビジネススクール、公共政策大学院の重要な科目に発展したものであり、時代を先導するリーダーの基礎教養の一つといわれています。
交渉学では、交渉プロセスを適切にマネジメントし、効果的な合意形成を実現するための様々な方法論、考え方を学びます。交渉学は、座学による理解を超えた実践知の習得を重視します。本講義においても、交渉特有の心理の罠・バイアス、説得技法(詭弁への対処、修辞学)、問題解決に向けた各種のアプローチについて、受講生による実践的な模擬交渉(アクティブラーニング形式)を用いて学びます。本講義の受講によって、自らの交渉スタイルを自己認識(メタ認知)することができ、さらなる改善へとつなげることが可能となるだけでなく、最新の研究成果に基づく交渉理論を身につけることができます。参加者には、この科目全体を通じて「Win-Win な交渉」という問いを探求することを期待する。